インプラントと「かぶせもの(クラウン)」の違いは何ですか?
2025年10月13日
前回のコラムでは、奥歯は金属のほうが強いですか、について詳しく解説しました。
前回の要点は、場合によっては金属が有利」なこともあるが、必ずしも金属が常に最良というわけではなく、素材ごとにはそれぞれの長所・短所があり、咬む力(咬合力)や歯並び、対合歯(咬み合う相手の歯)の状態、そして審美の優先度や金属アレルギーの有無などをトータルで考えて選ぶのが正しい判断になる、ということでした。
今回のコラムでは、インプラントと「かぶせもの(クラウン)」の違いは何か、について詳しく解説していきます。
インプラントと「かぶせもの(クラウン)」の違いは何かを簡単に言えば、インプラントは「歯そのものを失った場所に人工の歯根(ネジ)を埋めて歯を作る治療、かぶせもの(クラウン)は残っている自分の歯(または土台)に被せて形と機能を回復する治療です。
どちらも「咬める・見た目を整える」ための方法ですが、適応、手順、メリット・デメリット、費用感、メンテナンスが大きく異なります。
それぞれについて分かりやすく整理してご説明します。
1.定義と仕組み(何をするのか)
●インプラント
・顎の骨にチタンなどの人工歯根(インプラント体)を外科的に埋め込み、その上に土台(アバットメント)と冠(クラウン)を取り付けて人工の歯を作ります。
・「歯の根から作る」治療です。
●かぶせもの(クラウン)
・虫歯や破折・治療後の歯を修復するために、歯を削って形を整え、その上に被せを作って被せる方法です。
・自分の歯(歯根)が残っていることが前提です。根管治療後に土台を立てて被せることも多いです。
2.治療の流れと治療期間(目安)
●インプラント
・検査(CT等)→ 外科手術でインプラント埋入 → 骨と結合するまで待つ(オッセオインテグレーション)(通常2〜6か月) → 土台・仮歯 → 最終クラウン装着
・全体で数か月〜半年〜場合によって1年程度(骨造成や追加手術がある場合はさらに長くなることもあります)
●かぶせもの
・診察・レントゲン → 虫歯除去・形成(歯を削る)→ 型取り → 技工所で作成 → 試適・装着
・根管治療がない場合は通常2〜4回の通院、数週間〜1か月程度で完了することが多いです。(根管治療が必要な場合は回数・期間が増えます)
3.メリット・デメリット(比較)
●インプラント
メリット
・隣の健康な歯を削らずに失った歯を回復できる。(単独で治療可能)
・咬合力が高く自然に近い咀嚼が可能。
・顎骨への刺激があるため、骨の吸収(痩せ)を防ぐ効果が期待できる。
デメリット
・外科手術が必要(麻酔・侵襲)。全身疾患や喫煙などでリスクが高くなる場合あり。
・治療期間が長く、費用は高額(保険適用外が一般的)。
・インプラント周囲炎(歯周病に相当する炎症)になるとインプラント自体の脱落や骨吸収のリスクがある。
・定期的なメンテナンスとセルフケアが必須。
●かぶせもの(自分の歯に被せる)
メリット
・比較的短期間・低侵襲で済む。
・保険適用の選択肢があり、費用を抑えられる場合がある。
・自分の歯根が残れば歯の感覚(多少の知覚)が維持される。
デメリット
・大きく欠損している場合や根が弱い場合、保存できずに抜歯となることがある。
・隣接歯を削る必要が出る(ブリッジにする場合)。
・再治療が必要になることがある(二次むし歯、土台の破損など)。
4.どちらを選ぶべきか(判断基準)
・歯が保存可能かどうか
→ 歯根が健全で、十分な支持が期待できるなら「かぶせもの」で保存するのが第一選択です。
→ 歯が保存不能(破折・深い感染等)なら「抜歯→インプラント」「ブリッジ」「部分入れ歯」の検討が必要です。
・周囲の歯への影響
→ 隣の歯を削りたくない・将来の隣在歯を守りたいならインプラントが有利です。
・全身状態・骨の量
→ 骨が痩せている場合は骨造成が必要。全身疾患(糖尿病、心疾患など)や喫煙の有無も重要です。
・費用・治療期間
→ 早く安く済ませたい場合はかぶせものやブリッジ、費用・時間をかけて長期的安定を目指すならインプラントになります。
・審美性の希望
→ 前歯など審美を重視する部位は、状況によりどちらも良い仕上がりにできるが、インプラントは歯茎の形態をコントロールしやすいメリットもあります。
5.メンテナンスと長期予後
●インプラント
・毎日の丁寧なブラッシング、歯間清掃、年に数回のメンテナンス(歯科受診)が不可欠。
・放置するとインプラント周囲炎が起き、骨の吸収や脱落につながることがある。
●かぶせもの
・隣接する天然歯と同様にプラークコントロールが重要。被せものの縁(マージン)に虫歯が再発すると再治療が必要。
・定期検診で咬合、適合、接着状態を確認。
6.よくあるご質問(Q&A)
Q.抜歯してすぐインプラントはできますか?
A. 場合によります。即時埋入できるケースもありますが、感染や骨量不足がある場合は治癒期間を置いてから埋入することがあります。
Q.インプラントは年齢制限がありますか?
A. 骨の成長が完了した成人であれば基本的に可能ですが、全身疾患や薬の影響で制限があることがあります。高齢でも全身状態が良好なら対応できる場合が多いです。
Q.保険は効きますか?
A. 日本ではインプラント治療は基本的に自費診療です。かぶせものは保険適用される素材があるため費用を抑えられる場合があります。
Q.どちらが長持ちしますか?
A. 一概には言えません。適切な診断・技術・メンテナンスが行われれば、どちらも長期間使えます。ただしインプラントは外科的に固定されるため、隣接歯に負担をかけにくく長期安定を得やすい一方で、メンテナンスを怠ると問題が起きやすいです。
7.ケーススタディ(簡単な例)
・ケースA:前歯が割れて残せない場合
→ 抜歯後、インプラントで単独冠を作製。隣の歯を削らず審美的に回復。
・ケースB:奥歯に大きな虫歯だが歯根は健全
→ 根管治療+ファイバーコアで土台を作り、セラミッククラウンで修復して保存。
・ケースC:複数歯欠損で隣在歯が健全
→ ブリッジで治療すると健全な隣在歯を削る必要があるため、将来のことを考えインプラントを選択することがある。
8.最後に(当院からのメッセージ)
「インプラントが良いのか、かぶせもの(歯を残す治療)が良いのか」は、検査結果と患者様の全身状態・ご希望(費用・治療期間・見た目など)を踏まえて判断します。
当院では、まずは残せる歯を最大限残す方針を基本に、残せない場合や患者様のご希望に応じてインプラントなどの選択肢をご提案しています。メリット・デメリットを正直にお伝えしますので、気になる点があればぜひご相談ください。


