かぶせものの金属が体に悪影響を与えることはありますか?
2025年11月3日
前回のコラムでは、歯の根が割れていてもかぶせものは可能か、について詳しく解説しました。
前回の要点は、場合によっては可能だが、多くの場合は難しく詳しい診断が必要ということになり、歯根の割れ(破折)には種類と程度があり、それによって治療方針は大きく変わる、という内容した。
今回のコラムは、かぶせものの金属が体に悪影響を与えることはあるのかです。
短く言うと、多くの場合、歯科用金属が直接的に重大な全身障害を引き起こすことは稀ですが、稀に局所的なトラブル(アレルギー反応や口内の違和感)や不快な症状が出ることはあります。
ここでは「どんな金属が使われるか」「起こりうる症状」「どのように診断・対処するか」「代替案」についてまでを詳しくご説明します。
1.歯科で使われる金属にはどんなものがあるの?
代表的なものは次の通りです。
・金銀パラジウム合金(通称:銀歯の合金)
保険で使われることが多い合金です(パラジウム、銀、銅などを含む)。
・ニッケルクロム合金、コバルトクロム合金
クラウンや義歯のフレームなどで使われることがあります。
・金合金(ゴールド)
適合性が良く、アレルギーが出にくい金属ですが高価です。
・チタン
インプラントや一部の土台に使われ、生体適合性が高い素材です。
・その他(金属メッキや合金の組成)
医院や材料により多少異なります。
2.どんな悪影響が考えられるのか?(主な例)
A.金属アレルギー(接触性皮膚炎、口腔内炎症など)
・口の周りや体にかゆみ・発疹(湿疹)が出る場合があります。
・口腔内では、口内炎が長引く・口唇や粘膜のただれ・舌の灼熱感(バーニング)、あるいは「口腔内の白い斑(口腔扁平苔癬様反応)」などを呈することがあります。
・特定の金属(ニッケル、パラジウムなど)に過敏な方はリスクが上がります。
B.ガルバニー現象(異種金属が接触して起こる電気刺激)
・口の中に異なる金属が複数あると、唾液を介して微弱な電流(ガルバニー電流)が生じることがあり、その結果、ピリッとした刺激感・金属味・不快感を感じる方がいらっしゃいます。
C.金属の腐食によるイオン放出
・金属は長期使用で中の金属イオンが微量に溶け出すことがあります。通常は微量で問題にならないことが多いですが、体質的に感受性の高い方は反応する可能性があります。
D.全身的な健康影響について
・現在の科学的知見では、通常の歯科補綴で使われる合金が全身疾患を直接引き起こす証拠は乏しいです。ただし、既往症や特定薬剤を内服している方、重篤なアレルギー既往がある方は個別に精査します。
3.「自分は金属アレルギーかも?」と思ったら(症状と対応)
こんな症状がある場合は相談を:
・口の中に長引く口内炎やただれがある
・金属を入れたあたりの皮膚に発疹やかゆみが現れた
・金属味やピリッとした電気的刺激(特に異種金属がある場合)を感じる
・原因不明の慢性的な舌の灼熱感や口腔内の違和感
まず歯科にご相談ください。診察で口腔内の所見を確認し、必要であれば皮膚科でパッチテスト(皮膚貼付試験)や、より専門的なリンパ球刺激試験(LTT)などで金属感受性を調べる場合があります。
4.診断がついたらどうする?(対処法・治療方針)
軽度の症状であれば
・原因となる金属が特定できれば、その金属を使った補綴物の一部交換を検討します(例:金属部分をセラミックに替える)。
・症状が口腔外の皮膚性状であれば皮膚科治療と併用して改善を図ります。
ガルバニー現象が疑われる場合
・異なる金属の接触を避ける・金属同士を絶縁する(可能な限り同種素材への置換)ことで症状が消失することが多いです。
・口腔内での小さな絶縁処置や、該当する補綴物の交換を行う場合があります。
重度のアレルギー・生活に支障がある場合
・該当する金属を除去してメタルフリー素材(ジルコニアやオールセラミック、あるいは金合金など)に替えることが選択肢になります。
・ただし、除去には歯の削合や再治療が伴うため、メリット・デメリット(侵襲・費用・寿命)を十分に説明して方針を決めます。
5.金属を完全に避けるべきか?(予防的交換の考え方)
・症状がない場合は、予防的にすべての金属を取り換える必要は基本的にありません。
・「金属が気になる」「アレルギー既往がある」「将来的にメタルフリーにしたい」という希望がある場合は、状況に応じて部分的に交換する選択は可能です。ただし自費診療となる素材が多く、費用や治療回数を考慮した上で判断します。
6.金属アレルギーがある場合に使える代替素材
・ジルコニア(オールセラミック)
メタルフリーで審美性も高く、アレルギーリスクが低いです。
・フルセラミック(e.maxなど)
審美性重視の前歯に適する素材です。
・金合金(ゴールド)
一般に金属アレルギーが出にくいと言われるが金属であるため完全な無リスクではありません。
・ハイブリッド素材/レジン系
比較的安価だが着色や摩耗のリスクがあります。用途によっては検討になります。
※いずれも適応や強度の面で長所短所があるため、歯の位置や咬合、費用などを踏まえて選びます。
7.日常生活でできること(予防とセルフチェック)
・新しい金属の補綴を入れた後、皮膚や口の違和感に敏感になることと、異常があれば早めに歯科へ相談することをお勧めします。
・異種金属(古い銀歯+新しい金属など)が口腔内に混在する場合、金属味やピリッとした感覚が出やすいので気になるときは相談することをお勧めします。
・定期検診で金属の腐食や辺縁(マージン)部の問題を早期発見することが重要です。
8.よくあるご質問(Q&A)
Q.金属アレルギーがあるとインプラントはできませんか?
A. インプラント体は主にチタンでできており、多くの方で生体適合性が高いです。チタンアレルギーは非常に稀ですが、既往がある場合は事前に検査・相談が必要です。
Q.銀歯が入っていると体に蓄積しますか?
A. 補綴で使われる金属が微量に溶け出すことはありますが、通常の口腔内使用では重大な蓄積による健康被害の報告は一般的ではありません。ただし個別の感受性はあるため症状が出る場合は評価します。
Q.アレルギー検査はどこで受けられますか?
A. 皮膚科でのパッチテストが一般的です。歯科医院での相談の上、皮膚科やアレルギー専門医へ紹介することもできます。LTTなどの特殊検査を行う施設もあります。
まとめ(当院からのメッセージ)
・歯科用金属が全員に深刻な害を及ぼすわけではありませんが、金属アレルギーやガルバニー症状など、局所的なトラブルは起こり得ます。
・症状がある方はまず歯科での診察を受け、必要なら皮膚科でのパッチテスト等で原因を特定します。
・原因が確認されれば、メタルフリー素材への置換や部分的な対応など具体的な解決策をご提案します(費用・治療期間・リスクを丁寧に説明します)。
・症状の有無にかかわらず、「金属を避けたい」「見た目を改善したい」といったご希望があれば、代替素材のメリット・デメリットを含めて一緒に検討いたします。
気になる症状や過去に金属でトラブルがあった方は、遠慮なくご相談ください。検査や相談、治療計画のご説明を丁寧に行い、安心して治療を進められるようサポートいたします。


