かぶせものが原因で口臭が出ることはありますか?
2025年11月17日
前回のコラムでは、かぶせものの周りの歯茎が黒くなるのはなぜか、について詳しく解説しました。
前回の要点は、歯ぐきがかぶせものの周りで黒ずんで見える原因として考えられることは複数あり、それぞれの原因により対処法が違っており、早めにその原因を見きわめることで、改善や対策ができることが多い、という内容でした。
今回のコラムは、かぶせものが原因で口臭が出ることはあるか、についてです。
短く結ぶと、かぶせものが直接あるいは間接的に口臭の原因になることはあります。
ただし「必ずかぶせものが原因」というわけではなく、原因は多岐にわたります。
重要なのは、どのようなメカニズムで口臭が発生するのかを理解して、早めに対処することです。
今回のコラムでは、歯科医院の立場から、患者さんに分かりやすく、原因・見分け方・対処法・予防策を詳しく説明します。
■ かぶせものが口臭の原因になるメカニズム
1.マージン(かぶせものと歯の境目)からの細菌侵入
かぶせものの縁(「マージン」と呼ばれます)にわずかな隙間や精度不良があると、そこに食べかすやプラーク(歯垢)が溜まりやすくなります。その隙間内部で細菌が増殖すると、腐敗臭や揮発性硫黄化合物(においの主要成分)が発生して口臭になります。
2.二次う蝕(かぶせものの下での虫歯)
適合不良や辺縁からの菌の侵入で、かぶせものの下に虫歯ができると、内部で酸素がなくても活動できる「嫌気性細菌」が繁殖し強い口臭の原因になります。症状が進むと痛みや腫れを伴うこともあります。
3.洗浄不良(清掃困難部位)
ブリッジの土台となっている歯と別の土台歯の間にある「ポンティック」と呼ばれている橋になっている部分の下や、被せものの接触点、マージン周囲はブラッシングしにくく、プラークが残りやすい場所です。蓄積したバイオフィルム(細菌どうして作られた膜)によってが口臭の温床になります。
4.歯周病・歯肉炎の併発
かぶせものの不適合が歯肉を慢性的に刺激すると歯周炎になることがあり、歯周ポケット内の嫌気性菌が臭いの主成分を作り口臭を強めます。歯周病は口臭の代表的原因の一つなのです。
5.接着材やセメントの残留・劣化
接着時にセメントが残っていたり、古くなって劣化するとその部分に汚れが付着しやすく、においを発することもあります。
6.破損・欠損部からの汚染
かぶせものが欠けたり外れたりすると一時的に食べ物が詰まり、局所感染や腐敗が起こり口臭の原因になります。
■ こんなときはかぶせものが原因かもしれません(チェックポイント)
・口臭が急に強くなった、特にかぶせものを入れ替えた後や外れた後に強まった
・かぶせものの周囲にネバネバ感や食べ物が詰まる感覚がある
・歯肉が腫れている、出血する、膿が出る(フィステル)などの炎症所見がある
・ブリッジの下やかぶせものの辺縁に黒ずみや着色、不自然な隙間が見える
・口臭がブラッシングで改善しない
上のどれかに心当たりがあれば、かぶせもの周囲の問題が疑われます。自己診断せず歯科での検査をおすすめします。
■ 歯科での診断と具体的な対処法
診断で行うこと
・視診(かぶせものの適合・着色・破損の確認)
・プロービング(歯周ポケットの深さ測定)
・レントゲン撮影(かぶせものの下の虫歯や根の状態の確認)
・必要に応じて口腔内写真や細菌検査、さらなる画像検査
対処法(原因別)
・表面的な汚れ・セメントの残留
プロフェッショナルクリーニング(PMTC)や辺縁部の掃除で改善することが多いです。
・マージン不良や適合不良
かぶせものの再作製(やり替え)を検討。精密に適合するクラウンに替えることで根本改善が期待できます。
・二次むし歯がある場合
古い補綴物を除去して虫歯を除去、必要なら根管治療を行い、再補綴(新しく被せ直す)をします。
・歯周病が原因
スケーリングやルートプレーニングなどの歯周治療を行い、炎症を抑えた上で補綴の再評価をします。
・ブリッジ下や特殊な清掃困難部位
詰め物や構造の見直しや、フロス・スーパーフロスの使用指導、必要なら形態の設計の変更をします。
・外科的要因(膿やフィステル)
感染源の除去(根管治療や抜歯)、抗生物質投与の判断などを行います。
・メタルアレルギーや金属腐食が関与する場合
メタルフリー素材(ジルコニアやオールセラミック)への置換を検討します。
■ 日常でできるセルフケア(口臭予防のポイント)
・丁寧なブラッシング
かぶせものの縁(歯と補綴物の境目)を意識して磨きますが、力を入れすぎないことが肝要です。
・フロス・歯間ブラシの併用
ブリッジや接触点の清掃にスーパーフロスやブリッジ用フロスを使う。
・うがい・水分補給
唾液の流れを保ち、乾燥による口臭を防ぐ。
・舌の清掃
意外に知らない方が多いのですが、舌の表面の汚れ(舌苔)も口臭原因になるため、優しく舌ブラシで清掃。
・喫煙と飲食の管理
喫煙や着色性・臭気の強い食品(にんにく等)は口臭を悪化させるので控えめにしましょう。
・定期検診
3〜6か月ごとのプロのチェックとクリーニングで早期発見とその対処。
■ 実際のケース例(患者様の目線で)
・ケースA:かぶせものの下で虫歯が進行していた例
前兆として、歯ぐきの腫れと強い口臭があり来院。古いクラウンを外すと内部に大きな虫歯と膿があり、根管治療とクラウンの再製作で口臭は消失しました。
・ケースB:ブリッジ下の清掃不良
ブリッジの下に汚れが溜まり口臭が強くなっていた患者さん。清掃指導と定期的なクリーニングで改善。将来的に着脱式の部分入れ歯やブリッジの形態の設計変更を提案しました。
・ケースC:接着セメントの残留
新しくかぶせものを入れた直後に口臭を訴え来院。辺縁にセメントが残っていたのが原因で、除去清掃で即改善しました。
■ 口臭がかぶせもの以外に由来する可能性も大いにあります
かぶせものに由来する口臭は多いですが、口臭の原因は口腔内だけでなく全身疾患・耳鼻科的疾患・消化器系の問題も関与します。以下もチェックが必要です。
・鼻の副鼻腔炎、扁桃(扁桃膿栓)、咽頭の問題
・口腔乾燥症(ドライマウス)
・糖尿病や慢性肝疾患などの全身疾患(医科での検査が必要)
・薬剤の副作用による口腔乾燥
歯科で口腔内の問題が否定されれば、耳鼻科や内科との連携をお勧めすることがあります。
■ よくあるご質問(Q&A)
1.新しくかぶせものを入れたら口臭が出始めたが、なぜですか?
A. 接着時のセメント残留、仮歯のフィット不良、あるいは新しい補綴物の縁が歯肉を刺激して炎症を起こしている可能性があり、受診して辺縁部の確認をしてもらうことをお勧めします。
2.どのくらいで口臭が消えますか?
A. 原因により異なります。単純な汚れ除去なら即日〜数日、感染や二次う蝕の治療が必要なら治療後しばらく経過観察が必要です(数週間〜)。
3.かぶせものを全部セラミックにすれば口臭は確実に防げますか?
A. メタル由来の問題が原因なら有効ですが、口臭には他の原因もあるため“確実”とは言えません。個別の検査で適切な対策を立てます。
■ 最後に
かぶせものが原因で口臭が起きることは決して珍しくありませんが、多くは原因の特定と適切な処置で改善が可能です。
「最近口臭が気になる」「かぶせものの周りがネバネバする・腫れている」「かぶせものを入れたあと匂いが気になる」といった症状があれば、我慢せず早めにご相談ください。視診・レントゲン・必要な検査で原因をはっきりさせ、最も負担の少ない解決策をご提案します。


