歯の根が割れていてもかぶせものは可能ですか?
2025年10月27日
前回のコラムでは、部分的なかぶせものと全体のかぶせものではどちらがいいのか、について詳しく解説しました。
前回の要点は、どちらが良いかはその歯の状態や咬む力、見た目の希望、将来のリスクを総合して判断するが、一般原則としてはできるだけ自分の歯を残す事を重視しつつ、歯が大きく壊れている場合や強い負担がかかる場合には全体のかぶせもの(フルクラウン)の方が安定するので、こういう場合の選択としては多くなるという内容した。
今回のコラムでは、歯の根が割れていてもかぶせものは可能か、について詳しく解説していきます。
短く結論をお伝えすると「場合によっては可能ですが、多くの場合は難しく、まずは詳しい診断が必要」ということになります。
歯根の割れ(破折)には種類や程度があり、それによって治療方針は大きく変わります。
1)「割れ(破折)」にはいくつかのタイプがあります
まず、どのタイプかで対応が違います。代表的なものは次のとおりです。
・表面のヒビ(クラック/クレイズライン)
表面やエナメル質に入る細い亀裂。自覚症状が少ない場合もあります。
・クラウン(歯冠部)破折
歯の上部(かぶせる部分)だけ欠けている場合。残存歯質によっては修復やかぶせ直しが可能です。
・歯根の破折(横方向・縦方向)
歯の根に亀裂や断裂がある状態で、破折の方向で2つに分類されます
・横方向の破折(根の一部が割れている)
位置によっては保存と外科処置の併用で残せることがあります。
・縦方向の破折(vertical root fracture)
根に沿って縦に裂けるタイプで、予後が悪く抜歯になることが多いです。
2)どうやって割れを判断するの?(診断の流れ)
正確な診断が最も重要です。一般的に行う検査として
・視診・探針検査:割れの有無や歯肉の溝(深いポケット)を確認します。
・打診・咬合テスト:痛みの出方で根の問題を推定します。
・プロービング(歯周ポケット測定):局所的に深いポケットがあると根の割れを示唆することが多いです。
・レントゲン(根尖撮影):骨吸収や根尖病変の有無を確認します。
・CT(コーンビームCT):割れの方向・範囲を三次元で把握でき、診断精度が高くなります。
・経過観察や一時的な仮処置:症状や変化を観察することもあります。
※歯根破折はレントゲンに写りにくいことがあり、CTが有効なケースが多いです。
3)「かぶせもの(クラウン)」ができるケースとできないケース
かぶせものが可能(保存を検討できる)なケース
・割れが歯冠部に限局している場合(内部に達していない)。
・歯根の破折が浅く一部のみで、外科的にその部分を除去(例:根の切除や歯根の部分切除)が可能な場合。
・割れが小さく、根管治療+覆髄/補強(コア)で歯の強度を回復できると判断される場合。
・第一大臼歯のように多根歯で、1本の根だけが破折している場合はヘミセクション(分割抜歯)や根の切除で残りの部分を補綴することもあります。
かぶせものが難しい(抜歯・代替治療を検討する)ケース
・縦方向の根破折(vertical root fracture)が広範で、歯根全長に及ぶ場合。
・割れが歯肉の下深く(骨縁下)まで及び、歯周組織の支えが失われている場合。
・根の内部が広範に感染していて、抜歯以外に安定させる見込みが低い場合。
・割れた部分を補強するための歯質がほとんど残っていない場合。
4)実際に行われる主な治療オプション
1.保存的修復+クラウン
・小さな破折であれば、根管治療(必要時)→土台(コア)→最終クラウンで修復。
・ただしポスト(支柱)を入れることが割れの原因になることもあるため慎重な判断が必要です。
2.外科的対応
・根管周囲の感染部の外科(歯根端切除):破折部が根尖近くなら適応になることがあります。
・根の部分切除 / ヘミセクション:多根歯(下顎大臼歯など)で、1根のみが破折している場合に残りを温存する方法です。
3.抜歯して代替治療
・抜歯→インプラント(失った歯を単独で回復)
・抜歯→ブリッジ(隣の歯を支台にする)
・抜歯→部分入れ歯(可撤性の補綴)
4.特殊手技(適応が限られる)
・意図的再植(抜歯して外で処置後に再植)、接着再建など。成功率や適応は限られるため慎重に選択します。
5)治療後の予後と注意点
・歯根破折がある歯は再発や感染のリスクが高く、長期予後は不確実です。保存処置を行う場合でも、定期的な経過観察が不可欠です。
・縦方向破折は一般に予後不良で、抜歯になることが多い点はご理解ください。
・部分切除や外科処置で残せた場合も、将来的に追加処置(再治療・再抜歯)になる可能性はあります。治療のメリットとリスクをしっかり説明の上で進めます。
6)患者さんに分かりやすい判断のポイント(実際に聞かれること)
・「痛みがあるか」「咬むと痛いか」「歯が動くか」「歯ぐきが腫れているか」など、症状の有無で緊急度は変わります。
・深い歯周ポケットや膿の出口(フィステル)がある場合は、根の破折や感染が疑われます。
・レントゲンで明らかな所見がなければ、CTで精査することで診断が確実になります。
・保存が可能かどうかは、検査→治療計画→経過観察の流れで最終判断します。
7)日常生活で今できること(受診までの対処として)
・なるべくその側で強く咬まない(硬い物や粘着性の食品は避ける)。
・痛みが強い場合は市販の鎮痛剤で一時的に対応できますが、根本治療は歯科医院へ行くことです。
・外れてきた破片や被せ物は捨てずに清潔な容器で持参してください。
・早めに受診し、写真や過去の治療記録(可能なら)を持って行くと診断がスムーズです。
まとめ(当院の方針そして)
・すべての「歯根破折」が即座に不可能というわけではありませんが、割れの種類・範囲によって大きく対応が異なります。
・できるだけ歯を残すことを第一に、正確な診査を行ったうえで、保存の可否とリスクを患者さんに説明して治療方針を決めます。
・保存が難しいと判断した場合は、抜歯後の最善の代替(インプラント・ブリッジ・入れ歯)も含め、長期的に安定する選択肢をご提案します。
気になる症状(咬むと痛い・歯がグラグラする・歯肉に膿が出るなど)がある場合は、できるだけ早めにご相談ください。精密な検査をして最適な治療プランを一緒に考えます。
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